研究概要 |
本研究では,われわれがこれまでにin vitro mutagenesisの手法で得てきた腸炎ビブリオ耐熱性溶血毒(TDH)の変異毒素をツールとして用いることにより、毒素蛋白の活性発現機序を解析することを目的として研究を行なった. これまでに得られていたTDH変異毒素のうち,R7と名づけた変異毒素は血液寒天上で野生型TDHの溶血活性を阻害する活性を示した.そこでこのR7についてより詳細な性状の解析を加えた.精製R7の溶血活性は野生型TDHの1000分の1以下に低下していたが,試験管内で野生型TDHの16倍以上の濃度を共存させた場合R7は野生型TDHの溶血を完全に阻害した.フローサイトメトリーおよびEnzyme immunoassayによりR7のヒト赤血球結合能を解析したところ,R7は野生型TDHにくらべ約50%の赤血球結合能を保持していることが明らかになった.また,野生型TDHにみられる赤血球膜に対するCa^<2+>イオンやpropidium iodide透過性亢進作用はR7では全く観察されなかった. これらの結果は,R7はその溶血活性はほぼ完全に喪失しているものの,ヒト赤血球への結合能は保持する変異毒素であることを示す. このような変異毒素の存在は,いまだ詳細なプロセスが明らかでないTDHによる溶血の機構が赤血球膜への結合とそれ以降の過程の,少なくとも2つのステップよりなることを示唆する.また,R7のように細胞(赤血球)への障害作用はもたないが結合能は保持する変異毒素は,いまだ実体の不明であるTDHレセプターの同定のためのプローブとして有用であると考えられ,現在この方向で研究を継続中である.
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