研究概要 |
赤痢菌は、ヒト(またはサル)に感染し重篤な出血性下痢症(細菌性赤痢)をひきおこす。その病原性発現には、菌の腸上皮細胞への侵入と、侵入した菌の隣接細胞への拡散、という2つの基本的過程が重要であり、それらの機能に関わる遺伝子群は主として赤痢菌が保有する巨大プラミスド上に存在し、細胞侵入にはipaB、C、Dが、また細胞内及び細胞間拡散には,virGの各遺伝子が直接関与していることが報告されている。 今回、トランスポゾンTn5のランダム挿入により、得られた多数の変異株中から細胞間拡散に関わる新しいビルレンス遺伝子をB群赤痢菌の大プラスミド上に同定し、virAと命名し、その構造及び機能を調べたところ現在まで以下のことが明らかになった。1.virA遺伝子は、400アミノ酸よりなる分子量44.7kDの親水性に富む蛋白をコードしていた。2.virA変異株のVirG蛋白の発現を調べた結果、親株に比べて著明に減少していた。3.virA遺伝子の転写は、細胞侵入性遺伝子群を正に調節しているvirB遺伝子により調節されていた。4.データベースによるアミノ酸配列のホモロジー・サーチで特異性の高いホモロジーは見らず、VirA蛋白は赤痢菌固有のものである可能性が示された。以上の結果から、virA変異株の細胞間拡散能の低下は、VirG蛋白の発現の低下によるものであることが明かとなった。 さらに、最近の研究結果からvirA遺伝子は細胞侵入性にも関与している可能性を強く示唆するデータが得られており(virB遺伝子の支配下にあることも含めて)、またVirG蛋白の発現の低下が細胞侵入性に影響を及ぼすことはないことから、本遺伝子は細胞侵入性に重要な役割りをしていることが示された。このように、細胞侵入性と細胞間拡散の両方に関与している遺伝子は、いままでにないユニークなもので、注目すべき遺伝子であると思われる。
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