EBウイルス(EBV)は乳幼児期における初感染後、生体の細胞性免疫監視機構による制御を受けつつ、終生に渡り持続感染する。EBVはヒトBリンパ球を主要な標的として感染し、これを自律的かつ無制限増殖する細胞へとトランスフォームさせるが、この時必須なEBV遺伝子LMP1により抗アポトーシス作用を有する細胞性癌遺伝子bcl-2が活性化されることが近年明らかにされた。しかしながら、EBV持続感染及び発癌機構におけるその意義は依然として不明である。そこでEBV感染に伴うアポトーシス感受性変化を検討することにより、bcl-2活性化の意義を明らかにすることを目的とした。 その結果、EBV感染によりヒトBリンパ球でbcl-2活性化が認められ、平行して低濃度血清培養下で誘導されるアポトーシスが抑制された。一方、LMP1発現能を欠く遺伝子変異株EBV感染によってBリンパ球のbcl-2活性化は見られず、アポトーシス抑制も認められなかった。また、細胞性免疫によるEBV感染細胞排除機構にはアポトーシスが関与するが、EBV感染細胞ではbcl-2発現に伴いlymphokine activated killer cell(LAK)による細胞障害感受性が著しく低下し、DNA断片化も抑制されていた。以上に結果は、EBV遺伝子LMP1のbcl-2活性化が、細胞性免疫監視の存在する生体内で遺伝子を発現しつつEBVが持続感染を維持していく上で有利に作用している可能性を示すものと考えられた。
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