ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)のDNA複製開始点領域を含むプラスミドの複製に必要なHCMVゲノム領域を13個のDNA断片として同定した。このゲノム領域は、その長さを合計するとHCMV全ゲノムの約3/4に相当した。次に、この領域中のHCMV DNA複製に関与する遺伝子を明らかにすることを試みた。そのために、以下の方法をとった。単純ヘルペスウイルス(HSV)ですでに同定されているHSV DNA複製関連遺伝子とホモロジーをもつHCMV遺伝子を選びだし、発現ベクターにクローン化した。また、HSVと類似性を持たないHCMV遺伝子の存在に対応するため、前述の13個のプラスミドDNAをより細分化したクローンを作製した。さらに、本研究申請時計画したDNA複製アッセイ系を、エレクトロポレーションを用いる系に改良した。本研究の進行中、我々と同様の実験を行い11個のHCMV遺伝子を同定したという報告が出た。これらの遺伝子は、前述の13個のDNA断片中に含まれていた。これらの遺伝子の産物には、いくつかの転写活性化因子と考えられるものが含まれており、発現ベクターを用いる本研究では、さらにこれらの転写活性化因子を除外することができると考えた。そこで、報告された11個の遺伝子を発現ベクターに組み込んだプラスミドを用いてHCMV DNA複製のアッセイを行った。その結果、HCMV DNA複製開始点を含むプラスミドのHCMV感染細胞内複製を検出できなかった。この原因を検討していたところ、11個の遺伝子の中で、プライマーゼ複合体因子をコードすると考えられる遺伝子(UL102)の塩基配列に誤りがあり、実際のUL102はさらに上流からコードされているという報告がごく最近出た。したがって、我々の作製したUL102遺伝子のクローンは本来の2/3しかなかったため機能を発現できなかったと考えられる。現在、正しい塩基配列に基づいたクローンを作製中で、でき次第、転写活性化因子を除外できるかどうか検討する予定である。
|