HTLV-1によるTリンパ球のトランスフォーメーションには、転写活性化因子であるTaxが重要であると考えられているが、我々および他のグループの結果より、Taxの導入は正常Tリンパ球を不死化する事はできるが、多くのHTLV-1感染細胞が示すIL-2非依存的増殖能の獲得までには至らしめない事が示された。このことより、IL-2非依存的増殖能の獲得には、Tax以外のウイルス遺伝子産物が関与している可能性が示唆された。我々は、envタンパクをその有力な候補と考え、HTLV-1env遺伝子産物のTリンパ球の増殖に対する影響の検討を試みた。そのために、まず、HTLV-1env遺伝子発現ベクターを構築した。最終的には、レトロウイルスベクターの系を考えたが、その前段階としてEBウイルス由来のプラスミドベクターpEHT22を用い、マウスH-2プロモーターにHTLV-1env遺伝子産物をつないだpEHT22/H2-env.pXを作成した。このプラスミドベクターをエレクトロポーレーションによって、IL-2依存性HTLV-1感染T細胞KN6-HT、および我々が既に得ているTaxを導入してIL-2依存的に不死化したT細胞PBL/DGL-Tax1に導入し、引き続きハイグロマイシンによる選択を行うことによりenv遺伝子のステーブルトランスフォーマントを得ることを試みた。KN6-HTからはステーブルトランスフォーマントが得られたが、PBL/DGL-Tax1からは得られなかった。KN6-HTのpEHT22/H2-env.pXのステーブルトランスフォーマントをIL-2を除いた培地で培養したところ、大部分の細胞は1ヵ月程度で死滅したが、ごく一部、増殖を続ける細胞が出現してきた。しかしながら、この細胞でのenvタンパクの発現をウエスタンブロットにより解析したところ、親株とほとんど変わらないレベルしか発現していなかった。さらに、親株を同様にIL-2を除いた培地で培養した場合でも、同様の頻度でIL-2非依存性の細胞が出現してきたことにより、IL-2非依存性の細胞の出現は、pEHT22/H2-env.pXの導入によるものではないことがわかり、IL-2非依存的増殖能の獲得におけるenvタンパクの関与の可能性については、否定的な結果が得られた。 一方、PBL/DGL-Tax1は、抗CD3で刺激すると、IL-2非依存的増殖反応を示す事がわかり、Tax1のみを導入したT細胞も、IL-2非依存的増殖のパスウェーを潜在的に持っていることが示唆された。
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