本年度の研究実績は次のようにまとめられる。1.培養細胞への感染実験に用いたHCMVウイルス高力価液は、感染細胞の培養上清より調整したものであり、ウイルス高力価液によるHOX 2E遺伝子の活性化は、ウイルス粒子の作用でなくHCMV-conditioned mediumとしての効果である可能性も否定できない。セントリコン(簡易微量濃縮器、アミコン社)を用いた分画法や高速遠心法によって活性分画を同定した。その結果、活性分画はHCMV-conditioned mediumではなくてウイルス粒子分画であることが確かめられた。2.これまでの実験結果からHOX 2E遺伝子の活性化には、新たな蛋白合成を伴わない蛋白キナーゼ(PK)の経路が介在する可能性が考えられた。PK-C系の賦活化が想定されるホルボールエステルTPAの単独負荷は奏功しなかったが、TPAには、HCMVによるHOX 2E遺伝子の活性化を強く抑制する作用が認められた。このTPAの抑制作用にPK-C阻害剤はcounteractしなかった。PK-A系の賦活化が想定されるdbcAMP単独負荷では、弱いながらHOX 2E遺伝子の活性化された。HCMVによるHOX 2E遺伝子の活性化経路にPK-A系が介在する可能性が示唆されたが、PK-C系の関与については解析不足のため今のところはっきりしない。3.HOX 2E遺伝子の発現調節機構そのものを理解しつつ、HCMV構造因子の作用機作を検討したい。例えば、HSV-1ウイルスの構造蛋白Vmw65がOct-1とDNA-蛋白複合体を形成する際の標的DNAシークエンスが報告されている。HOX 2E遺伝子上流域の構造や機能の特性を知るために、まず、上流域の分離を試みた。ゲノムファージライブラリーのスクリーニングにより、HOX 2E遺伝子上流域を含む約20kbのゲノムDNAクローン(HE-♯177)を得た。制限酵素マッピングを行い、HE-♯177から調整した断片をサブクローニングした。今後さらに構造と機能について調べる予定である。
|