研究概要 |
【目的】慢性関節リウマチ(RA)は免疫細胞の湿潤、滑膜の増殖、軟骨、骨破壊を伴う難治性の関節炎で、その病因の一つとして自己反応性T細胞の関与が示唆されている。我々は、ヒトRA患者T細胞による関節炎発症モデル作製のため、患者T細胞のSCIDマウスへの移入を試みたが、直接T細胞を移入したのでは、多くの場合一過性の弱い関節炎であった。そこで今回、T細胞を予めin vitroにてPHA,OKT3,ヒトタイプIIコラーゲン(CII)で刺激し、活性化した後、SCIDマウスへ移入したところ、滑膜の絨毛化、fibrosis,軟骨および骨破壊を伴う重篤な関節炎を誘導し得ることを見い出した。 【方法】RA患者滑液中よりSRBCロゼット法にてT細胞を精製した(CD^+Tcell>90%,NUB2^+Bcell<3%)。これらT細胞を無刺激又は10μg/mlPHA,1-5μg/ml OKT3,40μg/ml CIIで72hr培養し、洗浄後、2.5〜10×10^6 cellsを右膝関節腔および腹腔に移入した。30〜45日後、関節を病理組織学的に解析した。 【結果及び考察】RA無刺激T細胞移入実験では約半数が関節炎を発症した。しかし他の発症できなかった群においてもPHA,OKT3,CII刺激により、滑膜の肥厚増大、絨毛化あるいはfibrosis,軟骨破壊に到る関節炎の増強が見られた。この重篤な関節炎はT細胞移入側と反対側未処置の左膝関節にも見られ、両側性に発症していた。Controlとして、正常末梢血T細胞をPHA,OKT3等で刺激したものでは、無変化又はわずかな滑膜の肥厚が見られるのみであり、上記の重篤な関節炎はGVHDによるものではないと考えられた。また、関節炎発症SCIDマウスの血清中にはヒトIgG,IgM,リウマトイド因子は見出されない事から、この発症に於けるB細胞の関与は否定された。 さらにRAとの合併がしばしばみられるシェ-グレン症候群との関連を調べるために、重篤な関節炎を発症した12例について唾液腺を検索したが、全て正常であった。このことは、関節浸潤T細胞のTCRは関節特異的な抗原を認識している可能性を示唆している。 以上の事から、ヒトRA滑液T細胞をin vitroで活性化後、SCIDマウスへ移入して発症する関節炎モデルはT細胞によるRAの発症モデルとして有用であると考えられた。
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