一昨年来、我々はB細胞抗原受容体(BCR)を介した細胞内情報伝達に膜型チロシン脱リン酸化酵素であるCD45が重要な役割を担っていることをCD45を欠失させたB細胞クローンを樹立して明らかにしてきた。本年度はCD45のこのシステムにおける作用点を明らかにする目的でCD45の基質の検索を行った。未熟B細胞株WEHI-231より樹立したCD45陰性クローンでは、親株でBCR刺激後に認められる種々のチロシンリン酸化パターンがBCR刺激以前より構成的に認められた。この結果はCD45の基質がシグナル伝達の上流に位置するチロシンリン酸化酵素(PTK)であることを示唆するものであるので、BCR複合体に会合することが報告されているPTKを候補として、免疫沈降後の抗ホスフォチロシン抗体を用いたウェスタン解析、およびインビトロカイネース解析を用いて、親株とCD45陰性クローンでチロシンリン酸化の程度、酵素活性に変化の見られるPTKを検索した。その結果、src型PTKであるLynのチロシンリン酸化程度がCD45陰性クローンで増強しており、かつ自己および外来の基質に対するリン酸化活性がともに増強していることが明らかとなった。一方、同じsrc型PTKであり、BCRへの会合が報告されているLckではこのような変化は認められなかった。この結果は、CD45は選択的に基質に作用していること、未熟B細胞におけるLynのCD45による制御は、今まで報告されているsrc型PTKの様式、すなわちC末のネガティブ制御部位の脱リン酸化によるPTK活性の上昇とは異なるメカニズムに因ることが示唆された(投稿準備中)。現在、この機序の解析とともに、成熟B細胞BAL-17より樹立したCD45陰性クローンを用いて、成熟B細胞における基質の同定を進めている。
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