本研究では、ヒトプレBリンパ腫Nalm-6とマウス培養血管内皮細胞株KOP2.16を用いたin vitroモデル浸潤実験系を定量化し、がん細胞の血管外浸潤に関与する細胞内情報伝達経路の同定、さらには情報伝達に関与する接着分子を同定することを試み、以下のような成果を得た。 (1)細胞内情報伝達系を阻害する種々の薬剤の、Nalm-6の血管外浸潤に与える影響を検討した結果、Nalm-6側をミオシン軽鎖キナーゼ/PI3キナーゼの阻害剤であるwortmannin、低分子量Gタンパク質阻害剤であるrho、3量体Gタンパク質阻害剤であるPTX、チロシンキナーゼ阻害剤であるherbimycin Aで処理した場合にNalm-6の血管外浸潤が高率に抑制されることを明らかにした。 (2)血管内皮細胞側を種々の阻害剤で処理した場合、wortmanninでNalm-6の血管外浸潤が阻害されることを示し、がん細胞の血管外浸潤にはがん細胞の運動性のみならず、血管内皮細胞側の細胞骨格も重要であること、血管内皮細胞はがん細胞からシグナルを受け取ることによって積極的にがん細胞の血管外浸潤を調節していることを示唆した。 (3)Nalm-6のKOP2.16細胞への接着は上記阻害剤ではいずれも阻害されないことを示し、細胞接着と浸潤は異なる情報伝達系で調節されていることを示唆した。 (4)Nalm-6のKOP2.16細胞下面へのもぐり込みが、α4、α5、β1インテグリンそれぞれに対する抗体で阻害されることを示し、インテグリンVLA-4およびVLA-5がもぐり込みを司る接着分子であることを明らかにした。 もぐり込みの抑制が認められた阻害剤および抗体について、実際にin vivoで転移抑制効果があるかどうか、現在検討中である。
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