近年、岡山県の東南部、東備地域では、肺癌の過剰死亡が報告されている(昭和61年から平成2年までの5年間の市町村別標準化死亡比で、備前市・1.22、日生町・1.80)。そこで岡山県保健福祉部、厚生省統計情報部、岡山県東備保健所の協力を得て、この地域(備前市・日生町・佐伯町・和気町・吉永町)の死亡小票を調査し、肺癌発生に及ぼすじん肺症の影響の程度の推定を症例対照研究の手法で試みた。 死亡小票は上記5市町の昭和63年から平成5年までのものを利用した。症例対照研究は、肺癌死亡症例を症例群とし、対照群に胃癌とその他の癌による死亡症例を選んだ。暴露の指標はじん肺所見の記載を採用した。分析対象は、40才以上の男性に限った。死亡時の年齢で層別し、各々の層をマンテル・ヘンツェル法で統合し、調製オッズ比を求めた。 胃癌を対照疾患としたときの年齢調整オッズ比は1.41(95%信頼区間0.57-3.52)、胃癌と肺癌以外の癌を対照疾患としたときには2.22(同1.63-4.65)、肺癌以外の全癌を対照疾患としたときには1.97(同0.99-3.89)であった。いずれも、じん肺患者における肺癌の過剰死亡を示唆し、これまでの日本でのコホート研究の結果に一致している。しかし、今回は暴露の指標を、死亡小票のじん肺所見の記載に頼っているため、Nondifferential misclassificationなどのバイアスが考えられ、今後より良い推定値を得るためにさらに研究が必要であると考える。また、今回は年齢以外の交絡要因の情報、例えば喫煙歴に関する情報などは得られていないので、この点に関しても、今後更に検討が必要である。
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