本研究では高齢者の転倒についてその発生状況を知るために次のような調査を行った。 1、山口県美和町は山口県の東に位置し、人口5384人(平成4年10月1日)で60歳以上は男性892人、女性1138人であった。この地域の第一線で健康管理や診療を担っている町立美和病院(70床)の平成4年1月から平成5年3月までの外来の患者のうち、転倒が理由で受診した60歳以上の高齢者について外来カルテを閲覧し、転倒の発生状況と、その後の障害について調査した。診療録に転倒の記載があったのが男性18、女性39であった。このうち骨折と診断されたのは男性6、女性13であった。また5歳階級ごとの人口で転倒発症率をみると60-64歳で人口1000対男25、女20、65-69歳28、24、70-74歳6、31、75-79歳15、63、80-84歳33、35、85歳以上0、49であった。70歳以上では男性より女性の方が転倒発症率が高いことがわかった。 2、ある養護老人ホーム(入所者70名)において健康状況の問診と、握力、片足立ち、視力、継ぎ足歩行の検査をおこなった。対象は病院入院者を除いて61名(男性20名、女性41名)であった。その後平成6年11月から平成7年1月までの対象者の転倒の発生調査を行った。この間転倒したと本人や寮母から報告があったのは8名で、のべ10回であった。転倒の有無を目的変数に、先の調査の項目を説明変数にstepwise法を用いて重回帰分析を行うと、この3か月の転倒に強い相関があったのが「過去1年の転倒経験あり」「年金の書類が書けない」「利き足が右」「めまいがある」「友人の相談にのることがない」「新聞を読まない」「健康情報に関心がない」「手の萎縮」「本雑誌を読まない」「握力」「貯金の出し入れできない」「手の膨脹」「拡張期血圧が低い」「友人宅を訪問しない」「その他の症状がある」「手の痛みがある」「ふらつきがない」であった。
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