高齢者の在宅ケアでは、「対象者のみでなく、あくまで介護者をふくめた家族全体が精神的援助を求めている」という視点に立ち、人間尊重・尊厳の態度でRogersのカウンセリング的技法の3条件を用いたfamilycentered approach(家族中心療法)を2年間にわたって行った。その2年間にわたる家族中心療法のアプローチの効果判定と在宅での家族機能が在宅ケアに及ぼす影響評価のために、1)ケアカンファランスの場での評価、2)家族中心療法アプローチ前後に聞き取り質問票(GHQ30項目版等)による比較、3)訓練された第3者による評価等を行った。第3者の評価に関しては「病院関係者でない」ことを家族に伝え、「ケアの手伝いをする」という目的で2名の学生が数回訪問(平成6年10月-平成7年2月)した後に、簡易構成面接による家族機能評価を行った。 対象:長崎県琴海町で在宅ケアを受けている独居者を除いた17人16世帯で、評価は死亡脱落群等を除いた14家族について行った。原則として1-2週に1回の割合で訪問し、週1回ケアカンファレンスを行った。結果:ケアカンファランスの中での評価では1年間で家族間の関係が変化した群(良好変化群7家族、悪化群1家族)、不変群(良好群4家族、放置・消極的群2家族)であった。GHQ平均得点比較ではアプローチ前(7.14)、後(4.42)とストレス度は低下していたが、有意な差は認められなかった。(1=0.06)第3者による訪問評価では良好変化が8家族、不変5家族、悪化1家族であった。このように家族中心療法は在宅ケアのストレスで脆弱化している要介護老人と介護者(家族)の家族機能を変容・強化させ、在宅ケアには有効なアプローチの一つであることが示唆された。またその家族機能の変容は対象老人の愁訴を軽減させていることも判明した。しかし、今後は介護者の高齢化や独居者の増加などの理由で、家族による在宅ケアが将来、難しくなっていくことも示唆された。
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