摂取エネルギーの制限が自然発生および発癌・変異原物質誘発DNA損傷に及ぼす影響を検討した。炭化化物以外は対照(95kcal/wk)と同量摂取となるエネルギー制限(48kcal/wk)下で、雌・B6C3F1マウス(slc)を離乳期から6カ月間飼育した。自然発生DNA損傷の指標として、骨髄細胞のSCE(姉妹染色分体交換in vivo-in vitro法)、脾細胞のDNA single strand break(nick translation法)、および肝DNAのAP site(ARP assey)を測定した。また、サイクロフォスファミド(CP)を25mg/kg b.w.腹腔内投与し、2^n(n=1〜5)時間後に同様の測定を行ない、発癌・変異原物質誘発DNA損傷を検討した。 その結果、エネルギー制限により体重増加は対照に比べ有意に低く、肺、肝などの主要臓器のS期細胞割合も低下するなど、エネルギー制限の作用が確認された。エネルギー制限群の自然発生DNA損傷は、いずれの測定でも対照群に比べ低い傾向を示したが、AP siteは変動が大きくback groundをより低減する改善が求められた。また、CPで誘発されるDNA損傷が最大となる時間は、いずれの測定でもエネルギー制限によって大きくシフトすることはなかった。しかし、DNA損傷の程度は対照よりやや低く、損傷の半減時間は短縮する傾向が見られた。 以上から、エネルギー制限は自然発生DNA損傷を低下させ、自然発生腫瘍の発生を抑制する一因と考えられた。しかし、エネルギー制限によるCPの代謝速度の変化やDNA損傷半減時間の損傷量依存性を考慮すれば、エネルギー制限下でのCP誘発DNA損傷の低下や修復時間の短縮から、直ちにエネルギー制限は発癌・変異原物質によるDNA損傷を低下させ、修復能も高めたとは言えない。dose-responseや作用機序の異なる発癌物質を用いた検討を現在加えている。
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