研究概要 |
くすりの生体に及ぼす効果や毒性に重要な役割を果たしているチトクロームP450(CYP)酵素の種差を実験動物とヒトを用いて検討し、以下の成果を得た。 1.CYP2Aサブファミリーに属する酵素は、ヒト,サル,イヌ,モルモット、ウサギ及びラット肝のいずれにおいても検出された。CYP2A酵素に選択的な抗凝血薬クマリンの7水酸化反応には、約20倍の活性の動物種差が認められ、なかでもラットでは検出限界以下であった。一方、テストステロン7α水酸化活性はラットのみ認められた(論文1)。 2.降圧薬ブフラロールはヒトで遺伝的多型を示すCYP2D6酵素によって1'位水酸化を受けることが知られている。本反応に対するCYP2D酵素の特異的阻害剤とされるキニジン及びキニンの作用は、これら5種動物とヒト阻害程度が異なった。ラットでは、CYP2D1以外に、雄特異的CYP2C11、CYP1A1/2の関与が示唆された(論文2、3)。 3.環境発癌性物質6-アミノクリセンの代謝物ジオール体の代謝的活性化をDNA障害性を指標に検討したところ、ラットではCYP1A1が活性化に関与することが明らかになった。ヒトにおいてはCYP1A1は肝外臓器で発現しており、ヒト肝ではCYP3A4の活性化反応への寄与が示唆された。(論文4)。 4.新規免疫抑制剤FK506の代謝物を調べたところ、13位脱メチル化体の他、3種の酸化体が得られた。主要代謝物の生成は、ラット、ウサギ及びヒト肝のいずれにおいてもCYP3Aサブファミリーによって触媒されることが明らかとなり、実験動物がヒトのモデルになりうることが推察された(論文5)。 以上、くすりや発癌性物質の代謝に関与するP450酵素分子種や活性に種差が認められる例を明らかにした。今後、ヒトにおけるくすりの安全性、有効性を検討していくためには、実験動物との種差の情報を基に、必要に応じてヒトのP450酵素やその発現系を用いる代謝研究の重要性が示唆された。
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