活性酸素をアスベストによる肺傷害の原因の一つと考えられている。アスベストによる活性酸素の発生経路には、マクロファージを介した経路とアスベスト表面からの経路が知られている。前年度までは前者の経路に着目し実験を行った。その結果、Chrysotileによる急性肺傷害ではマクロファージの関与が示唆されたが、発ガン性の強い角閃石系アスベストではマクロファージの関与は明確ではなかった。つまり、マクロファージを介した経路からの活性酸素反応はアスベストの発ガン性の強さと一致しなかった。従って、アスベスト表面からの活性酸素の産生反応の強さが生体影響(発ガン性)の強さと関連するか検討を試みた。 アスベスト表面からの活性酸素の産生はChrysotileや角閃石系のAmositeやTremoliteで認められた。重量当りの反応の強さはChrysotileは角閃石系の物に比べてやや弱かった。しかし、サンプルの粒子形状はChrysotileは繊維が太いものや粒状のものも多く含まれるのに対し、角閃石系では粒状の物は無く比較的細い繊維が多かった。形状が異なるため、当然表面積も異なることが考えられる。つまり、今回の実験結果ではChrysotilに比較し発ガン性の強い角閃石系のものが表面からの活性酸素の産生反応が明らかに強いとは言えなかった。従って、急性的な肺傷害ではマクロファージの関与は示唆されたが、慢性的な生体影響である発ガン性に付いては二つの発生系路とも活性酸素が関与することは否定的な結果だった。
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