法医解剖で得られた臓器のうち、敗血症による遷延死の例、刺創および銃創による失血による急死の例、の肺と臓器を用いて、腫瘍壊死因子(TNFα)の発現を免疫組織化学的に調べた。TNFαは肺胞マクロファージに発現していたが、急死例にもみられ、死因を推定させるものでなかった。一方、サイトカインによってその発現が誘導されるセレクチンファミリーでは、凍結標本が必要なE-セレクチン(ELAM-1)を後に回し、パラフィン切片で染色可能なP-セレクチンの発現を調べた。P-セレクチンは銀増感を行って肺胞内皮に検出されたが、死因との関連はつかめなかった。これはP-セレクチンがE-セレクチンに比して血小板に比較的特異的で、放出も早期に起こり、細胞に残りにくいためと思われた。腐敗による組織構造の乱れも目立ち、銀の非特異的吸着も解釈を困難にした。また、TNFαは早期に血中に放出され、レセプターとともに遊離するため、血中TNFαおよび可溶性TNFレセプターI濃度を測定した。腐敗の影響を調べるため、前実験に新鮮血にTNFα標準品を一定濃度加え、恒温槽で20℃に保ち、毎日サンプリングして濃度の減少をみた。その減少曲線をもとに、実際の法医解剖で得た血液の資料から血清を分離して死亡時の測定値を換算した。しかし、法医試料は腐敗がひどく、測定値はほとんど限界以下であった。 以上、法医試料を用いての測定は予想以上に腐敗による影響を受け、今年度は成功しなかった。しかし、死後経過時間の短い新鮮な試料が得られる病理解剖の臓器および血液から、凍結切片を含めた分析を来年以降もさらに継続して、ショックという病態を少しでも具体的に理解したいと考えている。
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