1)小腸上皮は互いに密接に接合し、閉鎖帯(zonula occludens)も電顕的に閉じた構造に見える。しかし、時にこの細胞間隙が開大することが報告され、細胞間隙を介した高分子物質の吸収が推測されている。単相培養系では、細胞の経壁抵抗は殆ど細胞間隙に起因し、そのfense functionを電気抵抗から類推することが可能であることから、本申請者は単層培養系(ヒト小腸細胞に分化が類似したCaco-2、ヒト結腸の陰窩細胞に類似構造を有するT_<84>)を用いて、各種刺激に対するインピーダンス変化の解析を行った。添加した者は、in vivoの検討で高分子物質の吸収に影響を与えると推測された各種栄養素、薬物である。 2)栄養素については、Na^+共輸送蛋白を作動させるL-アラニンなどのアミノ酸は、生理的濃度範囲内で電気抵抗を減弱させ、細胞間副路の透過性を増大させることが判明した。その機序として繊維網を形成しているアクトミオシンリングが収縮し、それが結合しているタイト接合部を開く可能性が考えられるが、その収縮をトリガーする機構については未だ不明である。 3)一方、H^+共輸送蛋白を作動させる各種ジペプチドは電気抵抗に影響を与えなかった。 4)薬物については、NSAIDsやcyclooxygenase阻害作用を持つ一部の食品添加物(タートラジンなどの着色料・安息香酸ナトリウムなどの保存料)を用いて検討したが、電気抵抗には影響を与えなかった。 5)以上より、tight junctionは栄養素投与時に開閉する動的器官である事が判明した。今後この系を用いて、高分子物質の吸収に影響を与える因子を更に解明することにより、管腔内因子との関係が推測されるクローン病、好酸球性胃腸炎、食事アレルギーの病態の解明に寄与するものと思われる。
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