研究概要 |
北部九州には,抗HTLV-I抗体の陽性率が高く,成人T細胞性白血病/リンパ腫(Adult T cell leukemia/lymphoma以下ATLL)の好発地域であり,佐賀地方もその地域内にはいる.ATLLの臨床経過は,他のT細胞性の白血病やリンパ腫とはきわめて異なるものである.今回は,当院を受診したATLL患者の消化管病変について,上部消化管内視鏡検査の所見を中心に,1)ATLLの消化管病変の頻度,2)ATLLの上部消化管に対する浸潤の頻度,3)胃浸潤症例の内視鏡的形態分類,4)胃浸潤例の予後,5)組織学的検索と内視鏡形態との対比,6)ATLLの病型別の消化管病変の有無,7)さらにリンパ腫型ATLLにおける胃原発症例の有無,等を検討し,ATLLの消化管病変,特に上部消化管病変について明らかにすることを目標とした. 佐賀医科大学を受診したATLLにおける胃病変を内視鏡,病理組織を中心に検討した.1981年から1993年までのATLL患者96例について調査し,その結果全症例の66.1% に異常所見を認めた.その中の約半数は,ATLLの胃への浸潤が確認でき,その中の3例は胃に主病変をおくものであった.その消化管病変は一般に消化管浸潤が少ないとされる他のT細胞性の悪性疾患とは異なる臨床像を呈したが,内視鏡的形態には他の悪性リンパ腫によるものと特に際だった違いは認めなかった.胃への浸潤が確認できた症例と浸潤の確認できない症例との予後を比較してみると,後者のほうが予後のいい傾向にあった. 今回の96症例における検討で,ATLLに特徴的上部消化管の内視鏡像がをある程度限定できたが,未だATLLの消化管病変については不明なことが多いというのが実状であり,今後さらにATLLの治療成績や予後と消化器病変の相関について検討する必要があると思われる.
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