我々が確立した初代培養胃粘膜上皮細胞を用いた損傷修復モデルにおいて、損傷修復直後周囲に残存した細胞はすみやかに偽足様細胞突起(lamelliapodia)を損傷部位に向かって形成し、この偽足がruffling運動することにより細胞が損傷中心部に向かって遊走を開始した。また、損傷修復後12時間経過した頃からBrdU陽性細胞が損傷周辺に出現し、36時間後にピークを示した。以上のことから、損傷修復には修復早期から認められる細胞の遊走と後期に出現する増殖とが関与していることがわかった。 また、われわれのモデルでは損傷修復の過程に果たす細胞遊走の役割が特に大きく、一般には細胞遊走は細胞骨格系蛋白に大きく依存していることが報告されていることから、このモデルにおける細胞骨格および細胞内情報伝達系の役割の解析を試みた。その結果、損傷の修復過程にはアクチン-ミオシン系が働き、この系をCa^<2+>カルモデュリン系が制御していることがわかった。 さらに、様々な増殖因子の影響を検討し次のような結果を得た。EGF、インスリン、HGF(Hepatocyte growth factor)、TGF-α(Transforming growth factor-α)は損傷修復を促進し、とくにEGFとインスリンを同時に使用すると損傷修復の促進が増強された。これらの増殖因子は修復の過程の遊走、増殖の2つの過程をともに促進した。TGF-β(Transforming growth factor-β)、bFGF(basic FGF)は損傷修復に影響を及ぼさなかった。
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