癌耐性因子として注目されているメタロチオネイン(MT)イソ蛋白質(MT-1およびMT-2)の抗癌剤曝露時の遺伝子発現制御機構につき検討した。さらにMT遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を癌細胞内に導入し、イソMT遺伝子発現の変化と細胞の抗癌剤感受性の変化を観察し、抗癌剤耐性克服あるいは抗癌剤感受性制御の可能性について考察した。 (1)PCR法などによりMT-1およびMT-2遺伝子にそれぞれ特異的なcDNA断片を増幅し、これらをプローブとして用いた(既報)。培養ラット肝癌細胞のmRNA基礎発現量はMT-1がMT-2の約20倍であった。各種の抗癌剤を培養細胞に添加して数時間後に転写率の亢進を伴った各MTmRNAの最大誘導が観察され、24時間以内に基礎発現量に復した。 (2)各MT遺伝子5'側に共通なASO(15mer)を設計し、人工的に合成した。このASOをリポフェクション法により培養ラット肝癌細胞に導入した。効率よくASOを導入された肝癌細胞ではmRNA基礎発現量が減少し、かつ抗MT抗体を用いた間接蛍光法によるMT蛋白質の反応性も減弱していた。 (3)ASOを導入した肝癌細胞では抗癌剤によるMT蛋白質の誘導が抑制され、さらに抗癌剤添加後の細胞生存率が有意に低下した。 以上の実験結果により、抗癌剤によるMTの誘導は各イソMT遺伝子の転写レベルあるいはその上流において調節されていること、ASOの細胞内導入によってMTの発現誘導を遺伝子レベルで抑制し、ASOにより肝癌細胞の抗癌剤感受性を制御し得る可能性などが示唆された。 今後は臨床応用に向けてより多くの知見を蓄積させたい。
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