手術前無治療の原発性肺非小細胞癌患者108例(肺扁平上皮癌49例、肺腺癌59例)のホルマリン固定パラフィン包埋病理組織標本を対象に、肺癌におけるカテプシンBの役割について検討した。カテプシンBの発現はABC法にて免疫組織化学的に胞体が顆粒状に染色される癌細胞の割合を算出し、その割合により、カテプシンBの発現を(-)、(+)、(++)の3群に分類した。病理学的パラメーターとの関連は病理病期、pT因子による違いは認めなかったが、pN因子に関してはリンパ節転移を有する例では、有しない例に比べてカテプシンB(++)が有意に多かった(p<0.05)。カテプシンB(++)症例はカテプシンB(-)症例に比べて、肺非小細胞癌全症例、肺腺癌全症例、肺扁平上皮癌全症例、肺非小細胞癌病理病期1期症例において、各々有意に予後不良であった(p<0.01、p<0.01、p<0.05、p<0.05)。Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析より、カテプシンBは病理病期、pT因子、pN因子とは独立した有力な予後因子であった。 カテプシンBのインヒビターであるシスタチンAについても同様に免疫組織化学的に染色し検討したところ、病理病期、pT因子、カテプシンBの発現による違いは認めなかったが、リンパ節転移のある症例でシスタチンAの発現が強い傾向があった。 レーザー共焦点顕微鏡を用いて生きた癌細胞のカテプシンBの細胞内局在を蛍光染色で検討したところ免疫染色で強陽性になる癌細胞では細胞膜表面に強い蛍光シグナルを認めた。 肺癌患者10例について血清中カテプシンBの値を測定したところ、手術前後にて値に変化を認めなかった。また、血清中カテプシンBの値は健常者はすべて感度以下であったが、炎症が存在する患者では担癌状態の有無に係わらずその値は上昇していた。
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