研究概要 |
サーファクタント・プロテイン-A(SP-A)は、サーファクタント特異蛋白の一つであり、脂質の気層液層界面への吸着促進、II型肺胞上皮細胞を介する脂質の取り込み促進および分泌抑制、血清由来サーファクタント阻害因子の不活化、肺胞マクロファージの貪食促進、など多彩な機能を営んでいる.しかし、正常ヒト肺からのSP-Aの分離はこれまで報告がなく、また成人呼吸窮迫症候群や特発性肺線維症など難治性肺疾患におけるSP-Aの動態および機能に関する情報は乏しい.今回我々は、これまで繁雑であったSP-A精製の簡易化を試み、微量臨床検体からSP-Aを分離精製しその動態および機能の追及を目的とした. 今年度前半は、基礎的検討として、ラット肺洗浄液からサーファクタントを精製しSP-A分離を試みた.その結果、精製サーファクタントをEGTAで処理しカルシウムをキレートするとSP-Aがサーファクタント脂質より遊離した.このことから、SP-Aがカルシウム依存性にサーファクタント脂質に結合することが判明し、この性質がSP-A精製に応用可能であることを証明した.その成果は裏面の如く論文に掲載した(J.Jpn.Med.Soc.Biol.Interface.,1994,25:89-97). 今年度後半はこのシステムを臨床検体に応用すべく実験を進めてきた.臨床検体としては各種肺疾患患者の気管支鏡検査時の気管支細胞洗浄駅または剖検液を用い、現在までこれら洗浄液から数回の超遠心を繰り返すことによりサーファクタントを精製してきた.その結果、剖検肺のサーファクタントから本法を用いてSP-A分離に成功した.また、このSP-Aは、ラットII型肺胞上皮細胞からのサーファクタント脂質分泌を抑制能することが示され、近く学会発表および論文掲載予定である.今後は各種肺疾患からの検体について分析する予定である.
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