ヒトのα_1-プロテアーゼ インヒビターの一つであるα_1-アンチトリプシン(α_1-AT)は極めて多彩な遺伝子表現亜型を持つとが知られている。本研究では、日本人におけるα_1-ATの遺伝子表現正常亜型であるPiM亜型別の出現頻度を検討し、さらに健常者において、喫煙の肺機能、特に末梢肺機能に及ぼす影響がα_1-ATの型別により差がみられるか否かを検討した。247例(21歳から67歳)の健常者を対象に、血清中α_1-ATの量を免疫比濁法にて測定、等電点電気泳動法にて亜型を決定、同時に施行した肺機能諸指標と喫煙量、α_1-AT量、亜型、年齢その他の因子による重回帰分析等による解析を行った。健常者におけるα_1-ATの濃度は205.1±31.1mg/dlであり、COPD例では179.1±44.4mg/dlと有意にCOPDで血清α_1-ATの濃度は低かった。健常者における血清α_1-ATレベルには差はなかった。α_1-ATの亜型別頻度はM_1、M_1M_2、M_2、M_1M_3、M_2M_3、M_3が各々0.555、0.328、0.041、0.057、0.016、0.004であった。重回帰分析の結果、スパイロメトリー、フローボリュームのうち、一秒率の変化は年齢のみに依存し、V_<50>/HTの変化は年齢と性に依存した。一方V_<25>/HTの低下は喫煙量と年齢に依存した。健常喫煙者においては、いずれの指標の変化も、α_1-ATの遺伝子表現型の正常亜型には依存しないことが示された。以上の検討より、α_1-ATの正常亜型間には、喫煙による肺機能の影響に差は認められなかったことが示された。このことより、α_1-ATの正常亜型PiM間に、喫煙肺におけるセリンプロテアーゼの阻害機能に差がないと結論された。
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