研究概要 |
【目的】ポジトロンCTを用いて歩行時の脳機能を評価する。 【方法】対象は右利き健康成人男子7名(年齢31±9.4歳)。各被験者について安静臥床時とトレッドミル歩行時の2回FDGとPETを用いた脳ブドウ糖代謝の測定を施行した。データ収集は、トランスミッションスキャン施行後FDG150MGqを静注し、約30分間開眼安静臥床またはトレッドミル歩行を行い、静注40分後からエミッションスキャンを施行した。同一被験者の2回の画像はコンピュータ上で3次元的に重ね合わせを行い、全脳の放射能を標準化し、局所射能濃度を脳機能の指標とみなした。これは、局所脳ブドウ糖代謝率をほぼ反映する。脳の各部位について関心領域を設定し、安静時と歩行時の脳機能を比較した。また、各被験者の画像を標準脳に変換し、Intersubject averagingを行い、歩行により賦活された脳の領域について分散分析を用いて統計学的に解析した。撮影はHEADTOM-IV(島津)を用い、データの解析はコンピュータシステム(Convex-Stellar-Indigo2)と画像解析ソフト(Dr View,AVS)を用いて行った。 【結果】各被験者とも、歩行により小脳虫部のactivitが平均38%増加した。また、後頭葉の一次視覚領のactivityも平均14%増加した。小脳虫部の賦活は起立歩行時の躯幹バランスの調整に関係していると考えられた。後頭葉の賦活は立位歩行時には視覚情報によるバランス制御が行われているためと考えられた。また、全例で、歩行時には安静時と比較して、側頭、頭頂領域で相対的に左側のactivityが亢進していた。また、頭頂部の撮影できた症例では、傍正中部の躯幹、下肢に対応する運動知覚野の賦活がみられた。 【結論】今年度はFDGとPETを用いて歩行時の脳機能を評価する方法を確立した。この方法を用いて、歩行負荷のプロトコールを工夫することにより正常人の歩行調節に関わる脳機能を評価できると考えられる。また、歩行障害を有する疾患例を対象としてその病態生理学的機序を解析する手段としても有用と考えられ、今後検討を重ねて行きたい。
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