高血圧における血管壁再構築での、伸展刺激の病態生理学的意義を明らかにする目的で、ウシ肺動脈内皮細胞あるいはラット大動脈平滑筋細胞に毎分60回、最大24%の伸展刺激を2〜5日間加え、以下の成績を得た。 1.伸展刺激による平滑筋細胞増殖能への影響に関する基礎的検討:酵素法にて初代培養した平滑筋細胞では、伸展刺激により蛋白合成が亢進する結果が得られたが、継代を重ねた細胞や移植片法により取得した細胞においては、むしろ蛋白合成、DNA合成ともに制御された。この違いは、平滑筋細胞のフェノタイプの違いによることが推察された。また、伸展刺激を加えた内皮細胞からの培養上清は、非伸展刺激下での内皮細胞からの培養上清に比して、平滑筋細胞の蛋白、DNA合成を刺激した。これらは、血管壁での伸展刺激が、平滑筋細胞に対しての直接作用ばかりでなく、内皮細胞との相互作用により平滑筋細胞の増殖、肥大に働いていると考えられた。 2 アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性化への影響:平滑筋細胞肥大作用を持つアンジオテンシンIIの最終産生酵素であるACEは、内皮細胞に豊富に存在する。伸展刺激による内皮細胞ACEへの直接作用は認められなかったが、平滑筋細胞伸展刺激下での培養上清は非伸展刺激下での上清に比し、より強い内皮細胞ACE活性上昇を認めたことより、伸展刺激が高血圧モデルの血管壁ACE活性亢進に関与している可能性が示された。 3.平滑筋細胞のフェノタイプへの影響の検討:継代培養により合成型を示す平滑筋細胞について伸展刺激を負荷した結果、電顕上microfilamentが増え、rERやGolgi装置は減少した。ミオシン重鎖のSM1の発現亢進傾向、タイプIVコラーゲンやラミニンといった収縮型への移行作用のある基底膜成分の産生亢進も認めた。これらより伸展刺激は、培養平滑筋細胞に対してより生体血管壁細胞の収縮型に近い状態を保つように働くと考えられた。
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