研究概要 |
ヒト血管内皮型一酸化窒素(NO)合成酵素遺伝子の構造解析から、21kbにわたって存在する26個のエクソンから成ることがわかった。5'上流域にはTATAboxはなく、GC含量が高いハウスキーピングな遺伝子の特徴を有していた。 この遺伝子の2.2kb上流域のプロモーター活性をCATアッセイにより解析してみると、-2200から-283までの領域においては、活性の変動がほとんどみられなかった。しかし、-97までしか含まない領域においては、活性は急激に低下し、ベイサルレベルであった。TATA配列及びCAT配列がこの遺伝子の上流に存在せずに、-104にはSp1結合配列が存在していることから、Sp1結合配列を含む100bp上流領域が、コア・プロモーターとして働いていることが解る。 ヒト臍帯静脈由来の血管内皮細胞(HUE-2)を、リポポリサッカライド(LPS)(100μg/ml),IFN-γ(10u/ml),IL-1β(10ng/ml),TNF-α(10ng/ml)で24時間処理したが、NO合成酵素のmRNAの量の変動は検出されなかった。また、従来、閉経後の女性では高血圧症になりやすいことから、エストロゲンがNOの産生を誘導していると考えられ、ラットでは、エストロゲンの投与によりNOの産生がみられている。しかし、我々は、この細胞をβ-estradiol(0.25-1.0ng/ml)で24時間処理したが、mRNAの特異的な上昇はみられなかった。血管平滑筋細胞では、様々なサイトカインで処理するとNO産生が上昇するが、この細胞自身がNO合成酵素の遺伝子が転写活性をあげていることによることが、近年、解ってきた。我々の結果から、内皮細胞はこうしたサイトカインではこの遺伝子の活性に影響せず、従来言われてきたNO産生の上昇は、もしかすると平滑筋細胞が混在していたのかもしれないし、また、種による違いも考えられる。エストロゲンによるこの遺伝子の活性化も、in vitroにおいては相矛盾する結果が報告されているが、活性化されても、せいぜい2倍程度の上昇がみられるだけである。
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