カテコラミン(CA)の実験的投与や褐色細胞腫にみられる心筋変化はカテコラミン心筋症として知られているが、その成因は明らかではない。核DNA障害は物理的化学的刺激によって容易に発生するとされている。本研究では、CA心筋障害の一因としての核DNA障害の存在を明らかにした。培養心筋芽細胞(H9c2 cell)を用いノルエピネフリン(NE)添加液で刺激した後、Kohnらのalkaline elution法に蛍光的DNA測定法を併用しNEによるDNA single strand breaks(SSB)の発現を観察した。その結果、培養細胞を200μMあるいは250μMのNE液で12時間、1mMのNE液で3および4時間の刺激した際、DNA SSBが発現し、核DNA障害が確認された。ついで核DNA障害の発現機序を明らかにするため各種薬剤による防御機構を観察した。α-blocker(bunazosin)、β-blocker((propranolol)、Ca拮抗薬(verapamil)およびアンギオテンシンII変換酵素阻害薬(captopril)で細胞を前処置した際、防御効果は認めなかった。しかし、フリーラジカルスカベンジャー(スーパーオキシドディスムターゼ〔SOD〕、カタラーゼ)をNE液に添加した際には、NEによる核DNA障害に対して明らかな防御効果を認めた。なお、これらの条件下で細胞生存率は80%以上であった。以上、CAによる心筋障害作用は、細胞核DNAにまで波及し、DNA SSBを引き起こすが示された。さらに本障害の発生機序として、Ca overloadを含めた情報伝達機構を介する反応よりむしろCAによるフリーラジカル産生系の関与が示唆された。
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