研究概要 |
一酸化窒素(NO)はi)EDRFとしての全身の末梢血管抵抗の調節作用、ii)腎特異効果による体液調節作用、iii)中枢及び末梢の交感神経抑制作用、iv)他の血管作動物質分泌刺激・抑制作用を介し血圧調節に重要な役割を果たすことが知られている。しかし、その多くは麻酔下の急性実験に基づいたものであり、麻酔による交感神経活性の変化や経時的なfeedback gainの推移等の方論的問題を有していことから、NOによる慢性的な血圧調節機序に関する検討が待たれている。腎交感神経は腎体液調節系と交感神経系という二つの最も強力な血圧調節系をintegrateする機能を有していることから、今回我々は、NO合成阻害剤nitro-L-arginine methyl ester(L-NAME)慢性投与によって発症する新しい高血圧モデルにおける腎神経の役割を検討した。【方法】250-300gのSprague-Dawley rat24匹を予め1)sham手術/蒸留水投与群(S/V)、2)sham手術/L-NAME投与群(S/L)、3)腎除神経/蒸留水投与群(N/V)、4)腎除神経/L-NAME投与群(N/L)の4群に分け、腎除神経術又はsham手術後、1週間の観察期をおいて、4週間のL-NAME飲水投与(70mg/dl)を行った。各週毎に、尾動脈圧を測定、代謝ゲージにより尿中ナトリウム排泄量(UNaV)を測定した。【結果】尾動脈圧はshamL-NAME投与群において1週後より有意に上昇し、第4週に至るまで昇圧を示した(S/V:115±2,S/L:154±6,N/V:109±3,N/L:135±4mmHg.p=.001)。しかし、腎除神経はL-NAMEによる高血圧発症を著明に抑制した。UNaV(S/V:1.84±.07,S/L:1.69±.05,N/V:1.98±.07,N/L:1.92±.08mEq/day.p=.01)はsham L-NAME投与により減少したが、腎除神経はその反応を明らかに抑制した。以上の結果から腎交感神経切除によってNOの慢性的合成阻害によるNa貯留・高血圧発症が抑制されたことから、腎交感神経による水・Na再吸収亢進が、NOの慢性的合成阻害による高血圧の機序として示唆された。(Hypertension induced by chronic nitric oxide synthesis inhibition is renal nerve dependent..Matsuoka,H,Nishida H,Nomura G,Van Vliet BN, Toshima H Hypertension 1994;23:971-975)
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