研究概要 |
【1】本研究は重症な障害を持つ神経筋疾患患者(患児)を対象とし,その残存機能を十分に活用したコミュニケ-ト方法の開発を目的としている.特に,残存する随意眼球運動により得られる眼球電図(以下EOGと略)を利用し,相互意志伝達法の確立を目指すものである.本年度は1)正確なEOG検出のための眼球運動計測装置のハード・ソフト面での改良,2)EOG信号処理の高速化,3)意志表示情報の基準化と定量化,4)意志表出学習過程における作業療法プログラムの開発等に主眼を置き,その基礎的研究を行った.また,導入したニスタグモグラフ用アンプ2台・誘導パネル・収納ケース一式をもとに,眼球運動計測システムの構築を図った. 【2】本システムを利用し,健常者における眼球運動の特徴的なEOG波形のパターンを,水平共同運動,垂直共同運動.及びその合成成分と考えられる回旋運動の3種類に分けて信号を計測し,波形特性について検討した.健常者群での分析結果をもとにした,臨床応用及び意思表出学習プログラムを含めた検討には至らなかった. 【3】EOG信号は眼球運動によって得られる単一の波形成分のみだけでなく,水平共同運動,垂直共同運動及びその各速度成分と,水平・垂直運動の合成である回旋運動の5種類の信号に分けて,計測することが可能であった.以上のことから,障害を持つ人達のコミュニケーション手段の確立において,EOG信号を単一信号としてだけ利用するのではなく,随意に得られる特徴的な多種類の信号を安定して誘導し,臨床活用することが極めて有用であると考えられた.また,重度の障害を持つ人達の自立的な生活維持を図る為の作業療法学の確立においても,残存眼球運動から得られるEOG信号を基礎的に検討し,特異的な眼球運動パターンの波形特性を解析することが今後も重要であると判断された.
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