(1)心臓発生におけるレチノイン酸の関与を解析する過程で、レチノイン酸関連蛋白が発生過程心臓に時間、部位特異的に発現することを明らかにした。その後、細胞死とレチノイン酸による遺伝子発現制御の解析を目的として、発生において最も重要な細胞現象の一つである細胞死について検討した。細胞死関連抗原であるFas抗原の抗体をウサギに作成した。マウスFas抗原のN端近傍の合成ペプチドを抗原としてウサギに免疫し、抗血清を作成した。抗体価はウエスタン法にて検討した。これを1次抗体として、マウス胎仔に免疫組織化学染色を行い、マウス心臓発生過程におけるFas発現を検討した。Fasは、形成過程にある心筋細胞に発現し、成熟心筋では発現は減少していた。また、発生過程でその期限を異にする部位(conal swellingなど)はFas抗原の発現はなく、心筋細胞特異的な発現と考えられた。 (2)Fas発現は成熟心筋では(+)ではあるが著減し、形成過程にあると考えられるspongy layerでは強い発現が見られた。このことは、心筋細胞分化の初期に細胞死現象が生じている可能性を示唆した。心筋細胞が増殖し心臓壁を形成する過程で細胞死現象が形態形成に必要であることは十分想定でき、今後、Fas ligand の発現を検索し、心臓形成における細胞死現象の意味を解明する必要があると考えられた。 (3)アポトーシス(細胞死)に関与する因子は多数同定されているが、Fasは細胞死を誘導する因子の一つであり、その後、細胞死を実行する因子の一つであるICE(II-1 converting enzyme)などに情報が伝達されて細胞死が進行する。ICEは蛋白分解酵素proteaseの一つであり、この活性が高いことは細胞死現象の存在を示唆する。心臓発生におけるICE活性発現を同様に、免疫組織化学的に検討した。Fasと同部位に発現していることが確認された。
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