先天性銅代謝異常症であるメンケス病患者では重篤な銅欠乏による中枢神経障害をきたす。この中枢神経障害発症の機序の1つとして中枢神経系内での銅転送障害があると推論される。近年本症の病因はcopper transporting ATPaseの欠損であることが明らかになった。本研究では正常動物の中枢神経系でのcopper transporting ATPase酵素の発現、機能を解析し、本症の中枢神経障害の病態を解析しようと試みた。 1)まずTimm染色法を改良して銅の染色を行ない、脳での銅の分布を調べた。その結果Macularマウス脳では、正常対照に比べて血管およびグリア細胞が強く染色され、それに反してニューロンは染色されなかった。すなわち本マウス脳では血管内皮細胞やグリア細胞に銅が蓄積し、ニューロンは銅欠乏になっていることを示した。この結果より正常動物脳では血管内皮細胞、グリア細胞にメンケス蛋白が存在し、銅の転送に機能していることが示唆された。 2)個々の細胞を分離し、ノーザンブロット法でメンケス遺伝子発現の有無を調べた。個々の細胞は分離できたが、細胞からの十分量のmRNAの調整およびハイブリザイゼーションのための適切な方法が確立できず、まだ信頼できる結果を出すに至っていない。現在これらの方法を検討中である。 3)免疫組織学的検討も試みた。メンケス蛋白の抗体はGitlin博士から分与されたものを用いた。しかしウェスタンブロット法で検討した結果、分与された抗体はヒトのメンケス蛋白と反応したが、マウスおよびラットのメンケス蛋白とは反応しないと考えられた。したがってこのメンケス蛋白の抗体でMacularマウスの病態を検討する計画を断念した。現在マウス・メンケス蛋白に対する抗体を作成することを検討している。
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