インフルエンザ感染症は、上気道局所でウィルスが感染増殖し疾病が発症するので、その感染予防には気道局所抗体が必要である。粘膜免疫機構の概念によって、粘膜面での局所抗体分泌を促すには粘膜面に抗原刺激が与えられなければならないことが明らかとなった。従って、現行の皮下接種ワクチンではインフルエンザ感染を充分予防することは期待できない。以上のことから、1985年より不活化インフルエンザ経鼻噴霧ワクチンの試験接種を行い、気道局所特異IgA抗体の上昇と、血集HI抗体の上昇が得られることを確認した。本研究は、インフルエンザ経鼻噴霧ワクチンの実用化にむけて、抗体の持続性と臨床面での感染状況を検討した。 集団生活をしている若年成人60名に対しインフルエンザ不活化経鼻噴霧ワクチン接種を行い、気道局所特異IgA抗体およびIgG、IgM抗体の上昇と血清HI抗体の上昇を認めた。従来よりワクチンの局所投与による局所局所IgA抗体の上昇は、抗体持続が短いと言われてきたが、本研究では3年間にわたり毎年ワクチン噴霧接種するとともに抗体価を追跡し、(1)局所投与であっても充分な期間の抗体持続が得られる(2)接種前に既存の抗体を保持している接種者にも追加免疫効果が得られる(3)3年間この接種集団でインフルエンザの感染者は無かったことが明らかになった。 平成6年よりインフルエンザワクチンは任意接種となり、集団防衛から個人防衛へとワクチン接種の目的も変わってきた。従来の不活化インフルエンザ皮下接種ワクチンへの期待は低く、感染予防の効果のある新しいワクチンの開発が期待されている。本研究は経鼻噴霧ワクチンの実用化にむけて、抗体反応の面からも、臨床的な面からも共に有効であり、有用なワクチンであることを明らかにしたものである。
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