本年度我々は、これまでの検討で1070A変異のヘテロ接合であることが判明している若年型1症例より新たに2330T変異を同定し、その性格を検討した。この変異は欠損酵素であるアリルスルファターゼA遺伝子上の2330番目のCからTへの一塩基置換であり、これはエクソン8の5'スプライス末端から22b下流に位置する。2330T変異によりThrからIleへのアミノ酸置換が起こることから、このアミノ酸置換により酵素活性が低下するものと考えられた。ところが症例のアリルスルファターゼAmRNAをRT-PCR法で増幅し検討してみると、2330T変異を有する対立遺伝子からは正常にスプライシングされたmRNAと、エクソン8の5'スプライス末端から2330T変異を含めた27bを欠失する異常なスプライシングを受けたmRNAの2種類が転写されていることが判明した。双方のmRNAに相当するcDNAを作成し、COS-1細胞に一過性発現させそのアリルスルファターゼA活性を検討してみると、正常にスプライシングされたmRNAに相当するcDNAは若干の酵素活性を発現するのに対し、異常なスプライシングを受けたmRNAに相当するcDNAはまったく酵素活性を発現しなかった。正常・異常のスプライシング比率は4:1であるため、酵素活性低下に関する2330T変異の主たる影響はアミノ酸置換を介してなされているものと思われるが、スプライシング異常の存在によりその表現型が影響をうけている可能性も考えられた。このようにエクソン上の一塩基置換がスプライシングに影響を与える例は極めて希である。pre-mRNAにおけるエクソン8の5'スプライス末端周辺の二次構造を解析すると、2330T変異の存在により安定性を減ずることが示され、このことが2330T変異によるスプライシング異常機構の1つの可能性として考えられた。 現在さらに3つの新しい変異を同定し、その性格を検討中である。
|