平成6年4月16日付で医学部附属病院の病棟医長(皮膚科)を命ぜられることとなり、予め準備していた上記の課題のようにごく基礎的科学的なものではなく、入院患者の協力を得て行なえる、より臨床に即した研究を目指すことに変更した。即ち、「成人型アトピー性皮膚炎患者の経皮的ダニ抗原誘発皮疹における好酸球浸潤、細胞間接着分子発現の時間的推移」について、研究分担者とともに病棟入院患者に対してパッチテストと生検を行なうことによりその研究成果を得たので、以下に簡略まとめて記すこととする。 目的はアトピー性皮膚炎(以下AD)病変部における好酸球浸潤の過程を明らかにすることで、具体的にはダニ抗原にて皮疹を誘発し、好酸球浸潤とそれに関与する細胞間接着分子の時間的推移について検討した。対象は皮膚科病棟に入院した成人型AD患者9例(男7例、女2例、20〜28歳)、コントロール6例(男4例、女2例、21〜29歳)(AD群はいずれもダニ特異的IgEがRASTスコアで5〜6と高値を示したもの)であり、被験者背部無疹部に東大物療内科より供与された粗ダニ抗原を用いて作製したダニ抗原試薬を生検時間の2^h、6^h、12^h、24^h、48^h前にパッチテストを行なう要領で貼布した。なお、貼布に際してストリッピングを行ない、角層を除去した。そして陽性所見のある貼布部位をすべて生検し、HE染色のほか凍結切片よりMBP、EPO、ECPなどの好酸球と関連した蛋白の発現、またそれと関連すると考えられる接着分子ELAM-1、ICAM-1、VCAM-1の発現を特殊染色(モノクローナル抗体使用)により調べた。その結果、(1)ダニ特異的IgE高値のAD患者は、コントロール群に比べダニ抗原によるパッチテスト陽性率が高い、(2)誘発皮疹において貼付2^h後には血管外への好酸球浸潤がみられ、時間経過とともに増加を示した、(3)好酸球顆粒蛋白(MBP、EPO、ECP)は貼付2〜6^h後より陽性細胞がみられるようになり、以後細胞外への沈着が著明となった、(4)貼付前後で血管内皮にELAM-1とICAM-1の発現増強が認められたが、血管外の細胞に発現の増強を認めたのはICAM-1のみであった、などのことより、好酸球の活性化、脱顆粒がADの皮疹形成に強く関係しており、その血管外への浸潤には各接着分子の中でとくにICAM-1の発現が重要であると思われた。
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