これまで、マウス骨髄より分離した肥満細胞をNIH3T3線維芽細胞上で共生培養する系に、扁平上皮癌細胞株KCMH-1よりえた培養上清を加えると、肥満細胞数およびヒスタミン含有量が無添加の場合に比べて数倍に増加することを明らかにした。さらに、この肥満細胞の増殖活性は、既知の肥満細胞増殖因子であるインターロイキン3、インターロイキン4、インターロイキン10に対する単クローン抗体を用いても中和できないことから、扁平上皮癌細胞株KCMH-1は新しい肥満細胞増殖因子を産生している可能性が高いと考えられる。さらに、扁平上皮癌細胞株KCMH-1の培養上清中に含まれる可溶性因子は、肥満細胞をNIH3T3線維芽細胞上で共生培養したばあいでのみ作用し、肥満細胞の単独培養では作用しないことから、NIH3T3線維芽細胞上のキットリガンドの発現亢進を誘導するかあるいはキットリガンドと共同作用により肥満細胞の増殖を促進するものと推察される。今年度は扁平上皮癌細胞株KCMH-1から遊離される因子の性状を明らかにすることを目的とした。扁平上皮癌細胞株KCMH-1の培養上清を種々のカラムクロマトグラフィで分析する方法により、この因子は分子量が約1〜4万のペプチド様の物質であり、陽イオン交換樹脂に吸着、陰イオン交換樹脂に弱く吸着されることを明らかにした。さらに、レクチンカラムによりこの因子はConAおよびWGAに吸着されLCAおよびRCAに吸着されないことから、分子内に複合型の糖鎖を有していることが推察された。また逆相クロマトグラフィではC18カラムでアセトニトリル約40%の位置に溶出された。現在、この因子を単一物質として得るために扁平上皮癌細胞株KCMH-1の大量培養を計画している。
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