毛母腫は毛包由来の良性腫瘍であり、病理組織学的には主として好塩基性細胞と陰影細胞より成る。好塩基性細胞の目立つ腫瘍では腫瘍細胞巣の周囲に線維性の被膜が認められる。一方、陰影細胞が主体で石灰化もみられるような腫瘍ではこの線維性の被膜はみられないことが多い。今回我々は20例の毛母腫の標本を収集し、この線維性の被膜の性状について免疫組織化学的手技を用いて検討した。シグマ社のα-smooth muscle actin(ASMA)に対する抗体を一次抗体として用い、ABC法により染色を行った。その結果、被膜を構成する紡錘形細胞はASMA陽性所見を示した。この紡錘形細胞を電子顕微鏡を用いて観察したところ、その胞体内には多数のアクチンフィラメントが存在することが確認された。更に手術時に得られた腫瘍の被膜を培養したところ、多数の線維芽細胞が生育し、この細胞をカバーグラス上で培養したものを抗ASMA抗体を用い螢光抗体法にて免疫染色を行ったところ、培養細胞の胞体内に多数のフィラメント様の陽性所見が認められた。近年我々は成長期毛包の変動部つまり毛隆起より下方の上皮性毛包周囲に存在する結合織性毛包にASMA陽性細胞があることを示し、この細胞が毛周期に伴い出現消退することを示した。今回の研究にて毛母腫の被膜にみられた紡錘形細胞は免疫組織化学および電顕的観察にて結合織性毛包に存在する細胞と類似していることがわかった。このことは毛母腫が毛包由来の腫瘍であるという考えを更に支持する結果であると思われた。また成長期毛包でみられる結合織性毛包の形成には毛母に存在する好塩基性細胞が重要な役割を演じていることが示唆された。
|