研究概要 |
平成6年までに、それぞれ正常皮膚6例、日光角化症4例、ボ-エン病5例、有棘細胞癌7例、基底細胞癌8例の検体を採取し、病理組織学的に確認し、以下の検索を行った。モノクローナル抗体によるc-fos,c-jun蛋白の免疫組織学的検索では、正常表皮、日光角化症、基底細胞癌では、両者の蛋白とも同様に発現が殆ど認められなかった。ボ-エン病および有棘細胞癌では一部の症例において軽度の発現を認めたが、特に細胞の分化との関連は明らかではなかった。一方、c-fosのanti-sense RNAプローブを用いたin-situ hubridization法による検索においては、正常表皮、日光角化症、ボ-エン病で基底層より有棘層により強い発現が認められ、有棘細胞癌では、高分化型でより強い発現が認められた。これに対して基底細胞癌では殆どその発現が認められなかった。これらの結果は、c-fosの発現が表皮細胞の腫瘍性増殖よりむしろ分化に関与していることを示す所見である。しかし、免疫組織学的検索と矛盾する結果であり、さらに症例を集積し、c-junのanti senseプローブによるin-situ hybridization法や別の抗体による免疫組織学的検索も含め施行し、蛋白およびRNAレベルの比較を行う予定である。C-myc遺伝子発現については、それぞれ数例でin-situ hybridization法を施行したが、正常表皮と皮膚癌において、中等度の発現が一様に認められ、明らかな差異はなかった。この結果は、c-myc遺伝子発現が表皮細胞の腫瘍性増殖に関与していないことを示す所見であるが、また症例数が少なく、モノクローナル抗体による免疫組織学的検索とともに、さらに検索を進める予定である。尚、サザンブロッティング法については、採取された検体の量が充分でないため、これまでのところ検出に成功していないが、大きな手術検体で検討する予定である。
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