縦隔腫瘍には、胸腺腫、悪性リンパ腫、神経原性腫瘍など様々なものがあり、これらの診断は主としてX線CTやMRI等の形態診断によってなされている。しかし、近年の診断法の進歩にもかかわらず、良性・悪性の鑑別や、悪性度の判定は充分とは言えず、治療法の選択や予後判定が困難な例が少なくない。一方、ポジトロンCTによる代謝測定が脳腫瘍や肺癌の診断や治療効果判定に有用であることが報告されている。本年度は、腫瘍代謝測定が縦隔腫瘍の診断に果たす役割を検討するために、39例の縦隔腫瘍患者に対してポジトロンCTを施行し、縦隔腫瘍の糖代謝およびアミノ酸代謝を測定した。内訳は、神経原性腫瘍4例、嚢胞性腫瘍6例、胸腺腫10例、胸腺癌8例、悪性リンパ腫4例およびその他の悪性腫瘍7例である。このうち37例ではフッ素18フルオロデオキシグルコースを用いて糖代謝を、また30例では炭素11メチオニンを用いてアミノ酸代謝を測定した。全ての腫瘍において糖代謝、アミノ酸代謝は正常骨格筋よりも高値を示した。腫瘍代謝を各腫瘍毎に比較すると、糖代謝、アミノ酸代謝ともに良性腫瘍では悪性腫瘍に比して低値であった。次に各腫瘍群において糖代謝とアミノ酸代謝を比較すると、ほとんどの腫瘍ではアミノ酸代謝よりも糖代謝が高値であったが、胸腺腫では糖代謝よりもアミノ酸代謝が高値であった。即ち、縦隔腫瘍の検出および良悪性の鑑別は糖代謝、アミノ酸代謝のいずれにても可能と考えられた。また、糖代謝よりもアミノ酸代謝が高値であれば胸腺腫を考慮すべきであると考えられた。 以上の結果より、ポジトロンCTによる腫瘍代謝の測定は、X線CTやMRI等の従来の形態診断では困難であった縦隔腫瘍の良悪性の鑑別を可能とし、さらに腫瘍の組織型等の質的診断が行える可能性が示された。今後は、各腫瘍の症例数をさらに増やすとともに、腫瘍代謝測定の治療効果判定への寄与について検討する予定である。
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