滋賀医科大学付属病院精神科に入院中で、同意の得られた双極性障害患者20名の寛解期とうつ状態について、および、年齢、性別が一致する正常被検者20名について、^1H-MRS(磁気共鳴スペクトロコピー)測定を行った。コリン含有化合物(Cho)、クレアチン、N-アセチルアスパラギン酸(NAA)の各ピークについて分析したところ、双極性障害患者ではCho/クレアチン比とCho/NAA比が有意に上昇していた。クレアチンの低下は認めなかった。これらは、^<31>P-MRSで見られたクレアチンリン酸の低下は、クレアチンの合成や輸送の異常ではなく、エネルギー代謝の障害によるものであることを示すと考えられた。また、Choは、細胞膜リン脂質の前駆体や分解産物を多く含むことから、Choの上昇は双極性障害において細胞膜リン脂質代謝の異常が存在する可能性があることを示すと思われた。 一方、患者の末梢血より抽出したDNAで、PCR法を用いて、ミトコンドリア遺伝子の共通欠失について予備的な検討を行った。30名中2名の患者で欠失を認めたが、正常被検者30名では認めなかった。これは双極性障害における脳エネルギー代謝の異常が、ミトコンドリア遺伝子の異常に基づくミトコンドリア機能障害によるものであることを示唆するものである。
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