研究概要 |
臨床経過(DSM-111R)並びに病理学的変化より診断された精神神経疾患者(感情障害、アルツハイマー病、アルコール依存症、精神分裂病)及び対照者の死後脳膜標本を用いてシグナル伝達系の変化を検索し、以下の知見を得た。 1、感情障害:単極性うつ病群(頭頂葉)においてGsを介したアデニル酸シクラーゼ(AC)活性はうつ病群で有意な低下を示した。一方、Giを介するAC活性の抑制率はうつ病群にて有意に増加を示した。さらに、Phosphodiesterase Type 4に選択的に結合する[^3H]-rolipramの結合特性を検討したが、そのBmaxはうつ病群において増加傾向が認められた。以上の結果はうつ病群においてGsとGi機能の不均衡が生じ、さらにcAMPの生成機能の低下と分解機能の亢進傾向を示唆する所見である。 2、アルツハイマー病:頭頂葉、側頭葉においてGsを介したAC活性はアルツハイマー病群で有意な低下を示した。[^3H]-rolipram結合実験ではそのBmaxは低下を示し、cAMPの生成・分解機能の双方が減弱していることが示唆された。また細胞骨格系蛋白質チューブリンとG蛋白質系との相互作用における加齢の影響をラットを用いて基礎検討を行い、さらにアルツハイマー病においてもチューブリンとGiとの連関が減弱することを見い出した、なお症例数は少ないがチューブリンに関して精神分裂病群において同様な所見が認められた。 3、アルコール依存症(ア症):エタノールのGs並びにGi/oに対するグアニンヌクレオチド結合量の増加率はア症群の大脳皮質系全体において有意な低下が認められた。この結果はア症群においてG蛋白質(Gs,Gi/o)のエタノールに対する反応性の低下を示唆する所見である。 4、治療薬の開発:mecobalaminがヒト中枢組織においてG蛋白質機能を活性化することを見い出し、今後G蛋白質機能を直接修飾する薬物が感情障害、痴呆疾患治療薬になる可能性を示唆した。
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