研究概要 |
インスリン非産生細胞に遺伝子操作を施し、糖濃度に反応するインスリン産生能の獲得を試みた。結果、理論的には糖尿病の遺伝子治療は可能であるが、産生量および糖濃度反応性が少ないため、血糖値を調節することが困難と考えられた。 下垂体細胞株にインスリン遺伝子を導入した結果、インスリンおよびプロインスリンを産生し、両者の比は5mM糖濃度では7:3であったが糖濃度を変化させても産生量に変化はなかった(国際糖尿病会議発表、1994、神戸)。この細胞株にさらに糖輸送担体タイプ2遺伝子を重複導入した結果、基礎インスリン分泌量は変化なく糖輸送担体タイプ1遺伝子の重複導入により基礎インスリン分泌量は約2倍に増加した。また、グルコカイネース遺伝子の重複導入によってインスリン分泌量は5mM糖濃度下と比較して20mM糖濃度下では2倍に増加した。しかし、基礎分泌量は線維芽細胞にインスリン遺伝子を導入した際の量と比較して30分の1であった。以上より下垂体細胞にグルコカイネース遺伝子をインスリン遺伝子とともに導入した結果、血糖に比例してインスリンおよびプロインスリンの産生は増加した。とくにプロインスリン産生が増加したため、20mM糖濃度ではインスリン:プロインスリン比は2:8になった(英文誌投稿中)。 また、ラット線維芽細胞に同様の手法でインスリン産生能を獲得させ、さらにマウスFAS抗原を導入した細胞をラットに移植した後、抗マウスFAS抗体を投与することで、移植細胞を選択的に除去しうる方法を開発した(Cancer Reserch,in press)。遺伝子治療の安全性を考慮すると、この手法は遺伝子導入細胞の選択的除去法として有効であると考えられた。
|