生理活性型インスリンを非内分泌細胞で産生させるために、正常のプロインスリン配列:B鎖-Arg-Arg-Cペプチド-Lys-Arg-A鎖に、非内分泌細胞に存在する蛋白分解酵素Furinの切断認識部位を導入させた変異プロインスリン遺伝子:B鎖-Arg-Arg-Lys-Arg-Cペプチド-Arg-Arg-Lys-Arg-A鎖を作成し、CHO、HepG2、NIH3T3などの非内分泌系細胞に導入・発現させたところ生理活性型インスリンを産生させることができた。本研究では、各細胞から分泌されたインスリンのB鎖C末端に付着している塩基性アミノ酸が、カルボキシペプチダーゼによる除去作用を受けて、完全に成熟型のインスリン構造をとっているかどうかをMono Sカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィー法で検討した。 まず最初に、変異プロインスリン遺伝子を導入した各細胞を通常の培養液(10%血清を含む)で培養した時のメディウム中のインスリンの構造を解析したところ、いずれの細胞から分泌されたインスリンもB鎖C末端の塩基性アミノ酸が全て除去されている成熟型の構造であった。この結果は、各細胞内に、強い酵素活性をもつカルボキシペプチダーゼが存在することを示唆しているので、我々は、各細胞内のカルボキシペプチダーゼH(CPH)活性(至適pH5.6)とカルボキシペプチダーゼN(CPN)活性(至適pH7.5)を調べたところ、予想通り各細胞ともほぼ同等の強いCPH、CPN活性をもっていた。 ところで、CPNは本来血清中に存在していることが知られているので、培養液中に含まれている血清の影響を除去するために無血清の培養液でHepG2細胞を培養し、そのメディウム中に分泌されたインスリンの構造を解析したところ、一部のインスリンがB鎖C末端に塩基性アミノ酸が残存している状態の構造であったが、大部分は、完全に除去された成熟型の構造であった。この結果は、細胞内で産生されたインスリンは、Furinによる限定切断を受けた後、細胞内に存在するカルボキシペプチダーゼによって大部分がB鎖C末端の塩基性アミノ酸が除去され、さらに、細胞外に分泌された後、培養液中に存在するカルボキシペプチダーゼによって残りの一部が完全に成熟型になることを示唆している。
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