偽性副甲状腺機能低下症(Pseudohypoparathyroidism:PHP)は、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)の分泌は保たれているにもかかわらず、PTHへの反応性の低下から低カルシウム血症などがもたらされる疾患である。PHPはいくつかの病型に分類されるが、このうちPHPIb型はPTH受容体の異常によりもたらされるものと考えられている。PTH異常体は1991年にクローニングされ、これによりPTH受容体を分子生物学的に検討することが可能となった。そこでPHPの病因を明らかにする目的で、PHP1b型患者のPTH受容体の変異の有無につき検討した。4例の本症患者、および健常対照者の皮膚線維芽細胞よりmessenger RNAを抽出し、Reverse transcription-coupled polymerase chain reaction(RT-PCR)を用いてPTH受容体の全coding領域を増幅した。増幅されたPCR産物のサイズはすべて同一で、PHP患者と健常者の間で差異は認められなかった。また検討し得た1例のPHP患者のPTH受容体のcDNA配列は、健常者のものと同一であった。さらに皮膚線維芽細胞にPTHを作用させ、細胞内cyclic AMP産生を検討した結果、PHP患者の細胞においてもPTHによるcyclic AMP産生が認められること、PHP患者の細胞のPTHに対するcyclic AMP産生は、健常者に比べ軽度低下している場合と、低下が認められない場合が存在することが明らかとなった。以上の結果、少なくとも一部のPHP患者の皮膚線維芽細胞は健常者と同一のPTH受容体を発現し、同様のPTH反応性を示しうることが示された。従ってPHP1b型は、腎や骨などの古典的なPTH反応組織に特異的なPTH受容体異常によりもたらされる可能性がある。
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