甲状腺ホルモン不応症(RTH)の発症機序として、変異T3受容体(TR)が正常TRの機能を阻害する、いわゆるdominant negative作用が考えられており、この作用には変異TRの二量体形成能の保存が必要であることが報告されている。今回我々は、ホルモン結合能が欠如しているにもかかわらずdominant negative作用を示さない2種の変異TR、R316Hとb^<^>422(427iPSRD)について、そのホモ二量体およびヘテロ二量体形成能をgel mobility shift assayにて検討した。Assayに用いた正常および変異TRとRXRaはbaculovirus-insect cell(Sf9 cell)システムで発現させて調製した。R316Hは一人の重症な患者と、同じ家系の二人の正常者に発見されており、dominant negative作用を持たない。b^<^>422は4アミノ酸残基の挿入によって人工的に二量体形成領域を破壊した変異TRである。R316Hはホモ二量体およびRXRaとのヘテロ二量体を正常TRと同等に形成したが、b^<^>422ではホモ二量体、ヘテロ二量体のいずれの形成も著しく低下していた。R316HがT3を結合せず、かつホモ二量体、ヘテロ二量体を形成して標的DNAに結合できるにもかかわらずdominant negative作用を有さないことは、変異受容体による二量体の形成がdominant negative作用の発現に必要ではあっても十分ではないことを示すものである。甲状腺ホルモン受容体の転写活性化機構として従来のヘテロ二量体形成以外に基本転写因子との相互作用の存在を示唆するものと考えられる。
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