甲状腺組織特異的転写調節因子として同定されたTTF-1、Pax-8はそれぞれhomeobox遺伝子群、paired box遺伝子群に属するDNA結合蛋白であり、甲状腺組織特異的蛋白の1つであるサイログロブリン(TG)遺伝子の転写調節領域に結合することが知られている。甲状腺刺激ホルモン(TSH)およびインスリンによるTG遺伝子発現調節にTTF-1、Pax-8がどのように関わっているのか検討した。初めに、PCR法により単離したラットTG遺伝子の転写調節領域(-178から-3)をレポーター遺伝子ルシフェラーゼの上流に組み込み、これをラット培養甲状腺細胞株FRTL-5に導入した。この細胞にTSHおよびインスリンを添加したところ、ルシフェラーゼ活性の上昇が認められた。また、これらのホルモンにより内因性のTGmRNAも増加し、単離した調節領域はTG遺伝子にTSH、インスリン応答性を賦与する領域であることが判明した。次に、これら転写因子のTG遺伝子調節領域DNAへの結合活性をelectrophoretic mobility shift assay法を用いて検討した。その結果、TSHおよびインスリン添加により、FRTL-5細胞のTTF-1、Pax-8の結合活性は単位細胞当たりで増加した。しかしながら、FRTL-5細胞のTTF-1、Pax-8 mRNA量はTSH、インスリンで変化がなかった。以上の結果から、TSH、インスリンによるTG遺伝子の転写活性の増加にTTF-1、Pax-8の転写調節領域への結合の増加が重要であることが示唆された。またこれら甲状腺組織特異的転写調節因子の結合活性の増加は翻訳後の蛋白の修飾によることが示唆された。
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