本研究は、視床下部及び下垂体の遺伝子発現に及ぼすホルモン効果を甲状腺ホルモンの作用を中心として細胞単位で検索することである。本年度は、in situhybridization(ISH)法を用いて、ラット下垂体の初代培養細胞において、甲状腺ホルモン及びTRHがそれぞれ独立してTSHβsubunit遺伝子の発現を調節している事(J.Neuroendo.1994)、また、ラット個体を用いて、ラット視床下部におけるc-erbAα2遺伝子が室傍核のみならず弓状核や腹内側核においても発現していることを報告した(Endocrine J.1995)。ラット以外では、同様にISH法を用いて、成熟期のサケのGnRH遺伝子の発現が一過性の甲状腺ホルモンの分泌上昇と同期して生ずること(Neurosci.Lett.1994)、プロラクチン及びその受容体が、下垂体のみならずヒト脱落膜にも発現し、妊娠の経過に伴い発現が変化することを報告した(日本産婦人科学会誌1994)。 続いて、liposomeを用いて細胞内へ遺伝子を導入し、発現調節を解析するための実験系の確立を目指した。まず、発現ベクターをliposome(Lipofectoamine^<TM>)と種々の濃度で混合し、1-24時間までの種々の時間経過で、上記の培養細胞、及びラット個体にtransfectionをおこなった。しかし、培養細胞も、動物個体も、周囲の線維芽細胞やグリア細胞にはかなり良い高率でtransfectするものの、下垂体細胞や神経細胞への導入効率は悪く、満足な結果は得られなかった。そこで、30merの甲状腺ホルモン受容体に対する合成オリゴヌクレオチドを用いて遺伝子導入実験を施行した。その結果下垂体の培養細胞においてc-erbAβ群のアンチセンスを導入したときのみ甲状腺ホルモンの作用を抑制する傾向が観察された。しかし(恐らく導入効率が低いため)その傾向は弱かった。今後、更に20mer程度までオリゴヌクレオチドを短くし、実験を継続することが必要であると思われる。
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