血液系腫瘍細胞株47種でD型サイクリンの発現をノーザン解析で検討した。サイクリンD3は、すべての細胞株にその発現を検出でき、TおよびBリンパ球系細胞株では、サイクリンD3しか発現していないものが約半数存在した。サイクリンD1とD2は、細胞株ごとに発現の有無が異なり、サイクリンD2は、ほとんどの骨髄系細胞株と約半数のリンパ球系細胞株で発現が見られた。一方、サイクリンD1の発現は、染色体転座t(11;14)(q13;q32)を有する細胞株に加えて、巨核球系やTリンパ球系の一部の細胞株にも見られた。多くの場合、サイクリンD1は他のD型サイクリンとともに発現していた。さらに、蛋白レベルでの解析では、11;14転座を有する細胞株のサイクリンD1蛋白の発現は、mRNAレベルと同様に他の細胞株より異常に高いことが確認され、蛋白レベルでも発現過剰が認められた。臨床検体の解析では、mantle cell lymphomaに加えて、11;14転座を有する前リンパ球性白血病や多発性骨髄腫の臨床例でもサイクリンD1の発現を検出でき、巨核芽球性白血病患者でも、一部の巨核球系細胞株と同様にサイクリンD1を検出することが可能であった。一方、正常骨髄には、サイクリンD1は検出されず、主にサイクリンD3が発現している。以上より、血液系腫瘍細胞におけるサイクリンD1の発現がmantle cell lymphomaに限らないことが明らかである。また、骨髄細胞が分化成熟するにつれて、サイクリンD1とD2の発現が失われていくことが示唆され、サイクリンD1は、血液幹細胞に近いレベルで発現していることが推測された。このように、D型サイクリンは、多能性幹細胞が種々の系統に分化・増殖する際に、系統特異的もしくは分化段階特異的に発現制御を受け、それぞれ特殊な作用を持っている可能性がある。
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