私は、造血因子依存性ヒト白血病細胞株(UT-7等)を用いて、主に顆粒球前駆細胞に作用する顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の細胞内シグナル伝達の研究を続けてきた。本年度の成果は以下の通りである。 (1)Grb2/Ash共沈蛋白質pp94の解析-GM-CSF、IL-3、EPO依存性のヒト白血病細胞株UT-7をGM-CSF、IL-3、EPOで刺激すると、Grb2/Ashと複数のチロシンリン酸化蛋白質が共沈する。これらの共沈蛋白質のうち最も強くリン酸化される95kDのチロシンリン酸化蛋白質(pp94)の性状解析を進めた。pp94のチロシンリン酸化は造血細胞の造血因子依存性と関係し、また、GST融合蛋白質を用いたin vitroの沈降実験から、pp94はGrb2/AshのSH2と結合することがわかった。 (2)Vavの役割-造血細胞において実際にRasを活性化するguanine nucleotide exchange factor(GEF)として、私はプロトオンコジーンであるVavに注目した。Vavは、最近になって、Rasを活性化するGEFであると報告された。UT-7からVavを免疫沈降してチロシンリン酸化レベルを調べると、VavはGM-CSF、IL-3、EPOの刺激でチロシンリン酸化される。さらに、GST融合蛋白質を用いたin vitroの沈降実験から、UT-7においてVavがGrb2/AshのSH3と結合することを明らかにした。造血細胞におけるRasの活性化経路の一つとして、チロシンキナーゼ→Grb2/Ash→Vav→Rasの可能性があり興味深い。
|