急性白血病は、播種性血管内凝固症候群(DIC)合併頻度の高い疾患で、白血病細胞中の凝固促進物質としては、組織因子(TF)(従来の組織トロンボプラスチン)が主とされている。また、特に急性前骨髄球性白血病(AML M3; APL)では、DICがほぼ必発であることはよく知られている。最近、APLに対する画期的な治療法として、ビタミンA誘導体であるオールトランスレチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法が臨床の場に導入されつつある。当大学の患者さん逹においても、原疾患の改善はもちろん、抗凝固療法なしで極めて早期のDICの改善を認めた。そこで、我々は、ATRAにより早期に白血病細胞中TFのダウンレギュレーションが起きるのではないかと推察した。一方、インターロイキン1、腫瘍壊死因子などは、内皮細胞上のTFのアップレギュレーション、及び内皮細胞上の抗凝固糖蛋白トロンボモジュリン(TM)のダウンレギュレーションを対照的に起こすことが知られていたため、白血病細胞中TFとTMの発現を併せて検討しようと考えた。各種細胞株を用いて、体系的に白血病細胞のTF、TMの発現を検討すると、ATRAは、APL及び単球性白血病細胞では、細胞表面及び細胞溶解液中のTF抗原・活性の発現を速やかに著明に減少させ、TM抗原・活性の発現を著明に増加させて、細胞の凝固活性を減少させることが見出された。またこの変化は遺伝子転写レベルでもたらされることが判り、これらの成果をBloodに発表した。実際、患者さんの血液から分離した新鮮な白血病細胞を用いて検討を続けているが、同様な機序が確認されている。本研究の成果は、レチノイン酸による遺伝子転写レベルでのDIC治療の可能性を示唆するとともに、広く血栓症の発症機序解明・治療への応用につながる可能性があり、更により詳細なレチノイン酸の作用機序の解明を続けている。
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