本研究においては、IL-6に依存して増殖するヒト形質細胞性腫瘍株(PE01)を用いて、IL-6受容体以降の細胞内刺激伝達機構の解明を行った。この細胞株は、IL-6のみならずIL-6と受容体を共有する他のサイトカイン(LIF、OSM)にも反応して増殖するが、これらのサイトカイン非存在下では増殖しなかった。このようなPE01細胞の増殖は、チロシンキナーゼ阻害剤であるゲニステインにより用量依存的に著明に抑制された。そこで、第一の課題としてこの細胞株におけるIL-6による細胞内蛋白チロシンリン酸化を検討した。IL-6はp85、p80、p69、p60、p42のチロシンリン酸化を用量依存的に誘導した。これらの蛋白の大部分のチロシンリン酸化は3-5分以内に最大に達し、その後は脱リン酸化されたが、p85のチロシンリン酸化のみは20-40分間持続した。また、これらの蛋白のチロシンリン酸化はゲニステインにより用量依存的に抑制されたが、p42のリン酸化はゲニステインの抑制効果を受け難かった。次に、IL-6によって誘導されるPE01細胞の細胞内pHの変化を検討した。IL-6は2-3分のlag timeをともなって、細胞内pHの上昇(細胞内アルカリ化)を緩やかに誘導した。以上の検討結果より、IL-6は細胞内蛋白チロシンリン酸化と細胞内アルカリ化という二つの重要な刺激伝達機構を介してヒト形質細胞性腫瘍の増殖を誘導することが明らかにされた。
|